広告は「説得」ではない?──アレンバーグが提示した“パブリシティ理論”とは

広告の本質は「説得」ではなく「思い出させること」──
この視点を初めて体系的に提起したのが、広告研究の第一人者**エリック・アレンバーグ(Erich Auerbach Ehrenberg)**です。

彼が唱えた「広告は説得ではなくパブリシティである(Advertising is not Persuasion – It’s Publicity)」という理論は、現在のマーケティング戦略に深い示唆を与え続けています。

この記事では、この理論の概要と、実務での活用方法をわかりやすく解説します。


アレンバーグとは何者か?

エリック・アレンバーグは、ロンドン・ビジネス・スクールでマーケティングを研究した英国の広告学者。広告の効果測定やブランド認知の定量化に力を注いだ実証主義者であり、**“広告にまつわる多くの常識を覆した人物”**として知られています。

とくに彼の研究は、のちの**バイロン・シャープ『ブランディングの科学』**にも影響を与えたとされています。


「広告=説得」神話を覆す理論とは?

広告は人を動かさない?

従来の広告論では、「広告は人の態度を変える」「広告は人を説得して購買に導く」とされてきました。いわば、認知 → 好意 → 購買 という直線的モデル(AIDMAやAISAS)が一般的でした。

しかし、アレンバーグの研究によれば、広告が人の態度を大きく変える証拠はほとんどないとされます。

広告の役割は「思い出させること」である

アレンバーグは、広告の本質的な機能をこう定義しました:

「広告の目的は、人々に“そのブランドの存在”を思い出させること(Publicity)である。
広告は新しい意見を形成するのではなく、既存の記憶を呼び起こす。」

つまり広告は、認知と想起を高める行為であり、「買うつもりのある人の選択肢に自社を入れてもらう」ことに貢献するのです。


パブリシティとしての広告:3つのポイント

1. 認知されていなければ、そもそも選ばれない

「買う気のない人を説得する」よりも、「買うときに思い出されること」のほうが遥かに重要です。
そのためには、ブランド名・ロゴ・メッセージを一貫して露出することが欠かせません。

2. 広告は“刷り込み”であり、“教育”ではない

広告を見る回数が増えると、そのブランドに対する「好意」や「信頼感」が徐々に高まる、という現象(単純接触効果)はアレンバーグ理論を支持する心理学的根拠です。

これは「説得して理解させる」のではなく、目立つことで頭に残すというアプローチ。

3. 継続的で広範な接触が鍵

一発の強烈なキャンペーンではなく、長期的かつ広範な接触を持続することで、広告の効果は蓄積されるとされます。
これは一見地味ですが、ブランドの想起率を上げるには最も有効な戦略です。


この理論はWebマーケティングでどう活きるのか?

バナー広告やリターゲティングに最適化

アレンバーグの考え方は、ディスプレイ広告やリターゲティングの効果測定に大きなヒントを与えます。
クリックされなくても、「あ、またあのブランドだ」と思わせること自体に意味がある。つまり、CTR(クリック率)だけで広告の価値を測ってはいけないのです。

ランディングページの「説得一辺倒」は危険?

LPやセールスページでは「メリット訴求」に偏りがちですが、アレンバーグ流に言えば、“パッと見で誰のページかすぐにわかる”というブランド感の演出こそ重要です。
論理だけでなく、記憶に残る印象設計が成果を左右します。


バイロン・シャープとの関係性:ブランドは“記憶の中の戦争”である

アレンバーグの理論は、現代マーケティングの重要文献『ブランディングの科学』(バイロン・シャープ著)にも大きな影響を与えています。

シャープは「ブランド選択とは、消費者の“記憶の中”で起きている競争だ」とし、アレンバーグの**“認知率こそ最も重要”**という考え方を定量データで補強しました。


まとめ:広告の役割は「口説くこと」ではなく「思い出させること」

エリック・アレンバーグが提示した「広告=パブリシティ」という理論は、次のようにまとめられます:

  • 広告は人の態度を大きく変えない

  • 大切なのは「知っている状態」を維持すること

  • 思い出される回数こそ、ブランド選択に影響を与える

つまり、広告の目的は「好きにさせること」でも「説得すること」でもなく、**“選ばれるために思い出してもらうこと”**にあるのです。

あなたの広告設計は、「説得」ばかりを意識しすぎていませんか?
今こそ、“印象に残す設計”へのパラダイムシフトを考えてみましょう。

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