ユーザーの“浮気心”を読み解く 〜ポリガマスロイヤルティという現実〜

「一度気に入ったブランドはずっと使い続ける」

このような“モノガミー(monogamy:一夫一妻)”的なロイヤルティ像は、現代の消費行動においては幻想に近いものです。実際のユーザー行動はもっと複雑で、複数のブランドやサービスを併用し、状況や気分に応じて使い分ける傾向があります。

この現象を指すのが、今回のテーマである「ポリガマスロイヤルティ(Polygamous Loyalty)」です。

ポリガマスロイヤルティとは?

この用語はマーケティング理論家のバイロン・シャープ(Byron Sharp)らが提唱した概念で、「消費者は1つのブランドだけに忠誠を誓うのではなく、複数のブランドをロイヤルに使う傾向がある」という考え方です。

例えば、あるユーザーがA社のコーヒーを週に3回飲み、B社のコーヒーを週に2回飲んでいたとします。この人はA社に「ロイヤル」ですが、B社にも一定のロイヤルティを持っている。これが“ポリガマス”の状態です。

なぜこの概念が重要か?

理由はシンプルです。

「我が社のファンを増やす=他社ユーザーを完全に奪う」ではなく、「シェアを分け合う」という発想が必要だからです。

多くのマーケターやウェブ担当者は「ユーザーを囲い込む」戦略に終始しがちです。しかし現実には、ユーザーは一つのブランドに縛られることを望んでいません。彼らは「気分」「利便性」「価格」「UI」など様々な要因でブランドを行き来します。

つまり「ユーザーが他社も使っているからといって、ロイヤルでないわけではない」のです。

ウェブディレクターとしての示唆

この理論は、ウェブサイト設計やコンテンツ戦略にも応用可能です。以下の点が重要になります。

1.「囲い込み」より「再訪問の理由」を作る
 → サービス間の切り替えが前提なら、戻ってきたくなる理由をUI/UXやコンテンツで明確に設計すべきです。

2.「比較される」ことを前提に設計する
 → 他社サイトとタブで並べられる世界観では、直感的な比較のしやすさ、説得力のあるコピー、第三者評価の提示などが差を生みます。

3.「完全ロイヤルユーザー」に依存しない
 → 常連だけを想定するのではなく、「時々来るユーザー」や「久しぶりの訪問者」にもやさしい導線設計が必要です。

マーケティングもウェブも「分かち合い」の時代

ポリガマスロイヤルティの考え方を取り入れることで、私たちはより現実に即したユーザー理解が可能になります。そして、ユーザーの“浮気心”を前提とした設計が、むしろ中長期的なロイヤルティを高めることにつながるのです。

ブランドを「独占」しようとするのではなく、「共有」される前提で戦略を練る。この視点が、これからの時代のマーケティングとウェブディレクションには欠かせません。

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