「顧客のリピート率をどう予測するか?」「新規顧客と既存顧客、どちらに注力すべきか?」──マーケティングやウェブ戦略において、こうした問いは常につきまといます。そんな中で注目すべき理論が「NBDディクレモデル」です。この記事ではその基本から実務への応用まで、できるだけやさしく、詳しくご紹介します。
※NBDはNegative Binomial Distribution(負の二項分布)、ディクレはDirichlet Distribution(ディリクレ分布)の略です。
そもそもNBDディクレとは何か?
NBDディクレモデルは、「人々の購買行動を数学的に予測するモデル」です。2つの要素に分かれています:
NBD(負の二項分布)モデル:あるブランドをどのくらいの頻度で買うかを予測
ディクレ分布モデル:どのブランドを選ぶか(シェア配分)を予測
つまり、
NBDで「頻度(回数)」を
ディクレで「選好(どこを選ぶか)」を
モデル化しているということです。
このモデルは、実際の市場データと非常に一致しやすく、コカ・コーラやユニリーバなど多くのグローバル企業のマーケティングに活用されています。
どんな仮説にもとづいているの?
NBDディクレの基盤には、次のようなマーケティング現象があります:
1. 「ライトユーザーが多数、ヘビーユーザーは少数」
→ 多くのブランドで8割の売上は1回きりの顧客から生まれている。
2. 「ブランドのロイヤルティはほぼ存在しない」
→ 人は毎回、状況に応じて違うブランドを選ぶ傾向が強い。
3. 「ブランド間の購入重複率(ダブルジョパティ)も予測できる」
→ 売れているブランドほど“他のブランドとも併用される”傾向がある。
これらの現象を説明し、将来の購買や市場シェアを数式で予測できるのがNBDディクレの魅力です。
ウェブマーケティングにどう役立つ?
NBDディクレモデルを知ることで、ウェブ施策や戦略設計にも活かせる示唆がいくつもあります。
リピーターだけに頼るのは危険
→ 売上の大部分は1回しか来ないライトユーザー。再訪や再購入を前提とした戦略はリスクが高い。
「ファンづくり」より「思い出してもらう」ほうが重要
→ ユーザーは記憶の中から一時的にブランドを選ぶ。だから「認知の広がり」が重要。
会員制度・ロイヤルティ施策の過信は禁物
→ リピートは偶然の要素も大きく、熱狂的ファンは想像よりずっと少ない。
トップブランドでも「他ブランドも使っている」
→ あなたのサービスを使うユーザーの大半は、他社も併用している可能性が高い。
数字で見てみよう:ある食品ブランドの例
ある調査では、Aというブランドの年間購入者のうち:
1回だけ買った人:70%
2〜3回買った人:20%
4回以上買った人:10%
という結果が出ています。
このような分布はNBDディクレモデルの予測とほぼ一致します。
つまり、「買ってくれる人を増やす(広く届ける)」ほうが、「リピーターを育てる」よりもはるかに効果的なケースが多いのです。
まとめ:ブランドは“広く・浅く”覚えてもらうもの
NBDディクレは、従来の「ロイヤルカスタマー重視」「ターゲットを絞るべき」という考え方に疑問を投げかけます。そしてこう示唆します:
市場全体を広くカバーする方が成果が出やすい
多くの人に“なんとなく覚えてもらう”ことがブランド成長の鍵
このモデルを知ることは、「誰に届けるか」「どれくらいの頻度で伝えるか」「どんなメッセージが有効か」を、より現実的な視点で設計する助けになります。
もしあなたがウェブサイトや広告の設計に携わるなら──
「深い理解や共感」ではなく、「浅くてもたくさんの人にリーチできているか?」という視点を一度取り入れてみてください。それが実は、最も確かなブランド成長の道かもしれません。
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