購買行動やブランド戦略に取り組むすべてのマーケターに知っておいてほしい基本法則があります。それが「購買重複の法則」です。この法則を理解すると、「なぜ自社の顧客が競合商品も買うのか?」「ブランドの成長には何が必要なのか?」といった問いに明確な答えが見えてきます。今回は、購買重複の法則の基本から、実務への応用までをわかりやすく解説します。
購買重複の法則とは?
購買重複の法則(Double Jeopardy Law)とは、マーケティング科学の権威バイロン・シャープやアンドリュー・エーレンバーグらの研究から明らかになった、「大きなブランドほど多くの顧客を持ち、しかも他ブランドとの顧客重複が多い」という経験則です。
この法則に従えば、ブランドのシェアが大きくなるほど、そのブランドの顧客は他ブランドも併用している割合が高くなります。つまり、顧客の“浮気”は珍しいことではなく、マーケット全体における自然な現象なのです。
なぜ購買重複が起こるのか?
購買重複は消費者の選好や行動パターンの多様性によって生じます。例えば、次のような要因があります:
商品の在庫や販売チャネルによる影響(スーパーにあったから、ネットで見つけたから)
値段やキャンペーンのタイミング
気分や季節による好みの変化
ブランドに対する“忠誠心”の低さ
私たちが日常的に複数のコーヒーブランドや洗剤、ビールなどを使い分けているように、ほとんどの市場で「1人の顧客=1ブランド」というわけではありません。
法則の根拠:NBDモデルと購買分布
購買重複の法則は、NBD(Negative Binomial Distribution/負の二項分布)モデルに基づいています。これは「どれくらいの頻度で顧客が商品を購入するか」を数学的に予測するモデルで、ブランドの購入頻度と購入者数の分布を説明できます。
このモデルでは、多くの顧客が「たまにしか買わない」ライトユーザーで構成されており、頻繁に買う人(ヘビーユーザー)はごく一部という前提です。結果として、複数ブランドの顧客が自然に重複しやすい構造になります。
マーケティング上の誤解を解く
購買重複の法則が示すのは、次のようなマーケティングの「直感に反する事実」です:
ロイヤルカスタマーの維持だけではブランドは成長しない
顧客は他ブランドも買っているのが当たり前
ブランド成長には“購入者数”の増加が必須
つまり、特定のファンに強く愛されるブランドよりも、ライトにでも広く買われるブランドの方がビジネスとしては有利なのです。
ブランド成長に必要なのは「広く買われること」
ロイヤルティを高める施策(ポイントカードやメンバーシップなど)はもちろん大切ですが、それ以上に重要なのは「1回でも買ってもらう人を増やすこと」です。
購買重複の法則に従えば、以下のようなマーケティング戦略が有効です:
より広い層への広告出稿とメディア戦略
認知獲得とブランド記憶の定着
販売チャネルの拡大(買いやすさの確保)
ライトユーザーへのリーチ
購買重複=負けではない。競合との重複は「成長の証」
自社の商品を買っているはずの顧客が、競合商品も買っていた…。そんなとき、がっかりする必要はありません。むしろそれは、ブランドの成長過程で自然に起こる「健康的なサイン」なのです。
購買重複の法則は、競合との顧客シェアを恐れるのではなく、全体市場でのリーチを最大化することの重要性を教えてくれます。
まとめ:購買重複の法則を理解することがブランド戦略の出発点
購買重複の法則は、私たちがつい抱いてしまう「理想的な顧客像(ずっと同じブランドを使い続ける人)」が、実は現実とは違っていることを教えてくれます。
ブランドを成長させるためには、まずこの現実を受け入れ、「多くの人に一度でも買ってもらう」「競合ともシェアされる存在になる」ことを目指すべきです。顧客を囲い込もうとするのではなく、もっと広く、もっと開かれたブランドづくりを心がけましょう。
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