ユーザーの“入り口”を制する者が市場を制す ― カテゴリーエントリーポイントとは

製品やサービスを選ぶとき、ユーザーは「ブランド」から選び始めるのではなく、「状況」や「目的」から検索・思考を始めます。つまり、最初の“入り口”に立てるかどうかが、マーケティングやウェブ戦略の成否を分けるのです。今回はその核心を突く概念「カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Point:CEP)」について解説します。

 

カテゴリーエントリーポイントとは何か?

カテゴリーエントリーポイントとは、ユーザーがある製品カテゴリに思い至るきっかけとなる状況や文脈のことを指します。豪マーケティング科学者バイロン・シャープの理論の中でも中核をなす考え方で、商品選択が起こる「発火点」のようなものです。

たとえば…

「朝バタバタしていて食事を作る時間がない」 → コンビニおにぎり

「プレゼン資料をすぐ仕上げないといけない」 → オンラインテンプレートサービス

「自宅のネットが不安定」 → Wi-Fiルーターの買い替え検討

このような「状況」が、それぞれ特定のカテゴリにユーザーの関心を向ける契機となります。ブランドはこの“状況の思い出されやすさ”を高めることが極めて重要です。

 

なぜCEPが重要なのか?

マーケティングでは「認知率」「ロイヤルティ」「指名検索数」などに注目しがちですが、カテゴリーエントリーポイントは「どんな状況で、あなたのブランドが選択肢として浮かぶか?」という“文脈ベースの認知”を測る指標です。

この点に注目すると、次のような戦略上の利点があります。

指名検索でなく「一般検索」で発見される確率が上がる

記憶内でブランドが思い出される確率が増える(メンタル・アベイラビリティの向上)

ニーズの多様性に対応したクリエイティブ設計が可能になる

 

ウェブサイトにおけるCEPの活用法

ウェブディレクションの現場では、このCEPをコンテンツ設計・UI設計に落とし込む必要があります。以下に主な応用例を挙げます。

1. 複数のCEPを想定したコンテンツ構造
→ 例:「急な来客時に」「健康志向の人に」「子どものおやつに」など、同じ商品でも複数の文脈を用意する

2. トップページやLPで「状況ベースの入口」を設計
→ CTAを「製品カテゴリ」だけでなく「状況」で分類(例:「時短したい方はこちら」「接待用途に」など)

3. 検索意図をCEP視点で再分類
→ 例:「肩こり 解消 グッズ」「姿勢 悪い 対策」→「長時間デスクワーク時」「在宅勤務中に」などの導線に展開

4. Google検索広告やSNS広告のコピーで文脈を提示
→ 「帰宅後10分で夕飯を」「急な雨でも安心なレインシューズ」など

 

カテゴリーエントリーポイントは“記憶の勝負”

ユーザーは「あなたのサービスが良いから」ではなく、「その場面で思い出したから」選ぶのです。つまり、ブランドの勝敗はロジックの優劣よりも「記憶の入り口」にどれだけ立てるかにかかっている。

だからこそ、製品・サービスの訴求軸を“スペック”から“状況”へシフトする必要があります。

 

まとめ:ユーザーの「その瞬間」に寄り添う

カテゴリーエントリーポイントを理解し、サイト設計・広告・コンテンツに活用することで、ユーザーの選択肢に挙がる確率を高められます。自社を思い出してもらうためには、「どんな時にそのニーズが生まれるのか?」という問いを深堀りすることが、何よりも重要です。

私たちウェブディレクターが意識すべきなのは、情報設計の先にある「記憶設計」。そのヒントがCEPには詰まっています。

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